20世紀の終わりごろ、2,3週間に一度は神田の書店街に出かけていた。その当時、三省堂の美術書コーナーに行くたび、眺めては書架に戻していた画集がある。ポーランドの画家、ベクシンスキーの画集だった。
廃墟の中で死臭が漂うような不吉な絵、悪夢のような異形の人物画、それらに交じって、壮大な、世界の深い場所にある宇宙の秘密を描いたような作品もあった。頁を開くと、最後まで見てしまう。しかし、心の奥底を冷たい手で触られるような不気味さに、購入するのがためらわれた。
そんなことをくりかえしているうちに、ある時、その画集に「出版社閉店のため入手困難」という紙が貼られていた。おぞましい絵が多いが、それが見れなくなると困る。思い切って購入した。
画集を手に入れると、あまり見なくなる傾向が、ぼくにはあるが、ベクシンスキーの画集はよく眺めている。そのたびに、自分のこころ、何を美しいと思い、何をおぞましいとかんじるのだかわからなくなる。おぞましさの極限とでもいうべき形象は、崇高な美しさと隣り合わせではないだろうか。この世界の果てでそれらは融合しているのではないか。
少年時代、ナチスの侵攻を経験したスジスワフ・ベクシンスキーは2005年、強盗に刺殺された。
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