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執筆者の写真傳田光洋

実物の迫力

さまざまな名画、実物に対面するに越したことはないけど、実際には海外の美術館で門外不出の作品もあり、画集やネットで見ざるを得ない場合が多い。でも、画集でよく見ていた絵の実物を見て、突然、ファンになる場合はやはりある。ぼくの場合、ルネサンス、イタリアの画家、サンドロ・ボッティッチェリがそうだった。


「ヴィーナスの誕生」「プリマヴェーラ(春)」は誰でもどこかで見たことあるでしょう。ぼくも小学生のころ小学館「美術の図鑑」か何かで見ていたと思う。小さな画面で見ると、なんだか通俗的な印象で、同時代のラファエロやフィリッポ・リッピ(ボッティッチェリの師)の方が繊細で美しい印象があった。


1997年、アッシジで開催されたシンポジウムに講演者として招待された。その後、フェイレンツェに寄って、「ヴィーナスの誕生」「プリマヴェーラ」を所蔵するウフィツィ美術館を訪ねた。びっくりした。大きいんです。「ヴィーナス」が172㎝x278㎝、「プリマヴェーラ」が203㎝x314㎝。描かれているヴィーナスやら神様やらは、等身大と思ってください。


その大きさで初めて気が付いたのだが、ボッティッチェリの絵の中には、はかなげな、すこし哀しそうな表情の女性がいる。「ヴィーナスの誕生」のヴィーナス。「プリマヴェーラ」では左から2人目の女性、三美神のお一人だそうです。「パラスとケンタウロス」のパラスもそう。女神さんなのだが、なんだか憂い顔に見える。華やかなルネサンスの時代、それもまたつかの間の夢、とでも言いたそうなまなざし。プルーストの「失われた時を求めて」で紹介される、「モーセの試練」の中央近く、井戸?の近くの女性もそうですね。


フィレンツェに君臨したメディチ家に招かれて、まずます幸福な人生を送ったように思える画家だけど、どこかで時の流れのはかなさ、栄華のむなしさも感じていたんじゃないか、と空想しています。

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