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執筆者の写真傳田光洋

多国籍キャンプ

サンフランシスコの南、カーメル市で皮膚科学の学会があった。研究室のメンバーがほぼ全員参加した。その後、日ごろから親しかった仲間たちと海辺でキャンプすることになった。


キャンプ地ではまずバーベキューを楽しむ。ぼくだけが自分の車で来ていたので、米・独・仏・シリアの仲間が乗り込んで、材料を買いに出た。大変なことになった。


ドイツ人・ウーリヒ君が偏食で「海を泳ぐもの、羽の生えたものは食べられない」という。シリア人・モハメッド君には、もちろん豚が御法度である。で、メンバーでスーパーマーケットに出向く。肉は必然的に牛か羊になる。美味しそうな鳥のモモ肉があってもウーリヒ君が拒否する。脂がのって鮮やかな色合いの分厚い鮭も素通りする。でっかいソーセージが魅力的だったが、よく見ると素材がブタ肉である。あれもだめ、これはイヤだで大騒ぎしながらやっと買い物を済ませ、車に戻る。


フランス人・エメリさんが気づいた。「バーベキューの炭、だれか持ってきた?」。全員忘れていた。ぼくも含めて計画性がないグループであった。みんな研究者だろ、おい。今ならスマホで検索だろうが、当時(1994年頃)には、そんなものない。あてどなく、ぼくが運転していると、メンバーが「あ、今の店、炭売ってるんじゃない?」という。慌ててUターンして店に入る。これを何度か繰り返してやっと炭を確保した。


はあ、これで後はキャンプ地へ行けばいいのだ、と安堵しているとアメリカ人・ナンシーさんが言う。「ライター持ってる人、いる?」。全員、喫煙者ではない。日本のキャンプ地なら管理施設で着火器具ぐらい貸してくれそうだが、アメリカでは期待しないほうが良い。今度はたかがライターを求めてさまよう。正確に言うと、ハンドルを握るぼくが、あれこれ指図するメンバーに従って右折左折Uターンを繰り返す。渡米前はペーパードライバーだったぼくである。運転は苦手だ。ほとんどキレかかっていた。


あたりが暗くなってやっとたどり着いた海辺のキャンプ場。テントを立てたら、そのままぶっ倒れた。元気なメンバーが夜の海へ出て「夜光虫がいっぱいいて波が青く光ってる!すごいよー」と言ってくれたが、起き上がる気がしない。


次の日は、メンバーのツレたちが合流し、カヤックを楽しんだ。やっと平常にもどったぼくは、大変だったけど、そのうち良い思い出になるんだろうなあ、とパドルを動かしていた。

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