まだ午前中だったと思うから、週末、朝の実験を終えて車で帰宅途中だったと思う。前が混んできたので、停車してたら、ずん!と後ろから衝撃が来た。何が起きたかわからなかった。我に返ってエンジンを止めてハザードランプを点滅させて車の外にでる。後ろにまわって驚いた。後部がぐしゃぐしゃになっていた。
数メートル後ろに、前の部分が潰れたヴァンがいた。あ、あいつに追突されたのだ、やっと気がついた。ただちに考えはじめた。ここはアメリカである。車の追突事故ぐらいでお巡りさんも来なければ保険会社も相手にしてくれない。まず現場で交渉して、その後、保険会社に連絡する。こっちが停車中に追突された。100%あっちの責任だ。それを認めさせねばいけない。よぉーし、やるぞ、と気合をいれた。
が、ヴァンから降りてきた相手を見て狼狽した。でかい若いにいちゃんである。レスラーのような体格でTシャツに野球帽をかぶっている。二の腕にはイレズミもある。うわわわわ、どうしよう。
が、話しかけてきた彼はおとなしかった。「ごめん、追突しちゃった。大丈夫ですか?」と頭を下げる。その時、気づいたのだが、彼のシャツには「風の谷のナウシカ」がプリントされていた。運転免許証や電話番号を確認するため、彼のヴァンに行くと「うわー、ボクのガンダムが壊れちゃった」と嘆く。見ると座席の前に、あれこれプラモデルが散らかっていた。
幸い相手が非を認めたので、すかさずぼくは「この事故は私の過失です」とメモ帳を破って書き、署名をさせた。その後、自分の車に戻ったら、壊れた後部が一部、垂れ下がって地面についている。アパートまではまだ数百メートルある。「何か切るもの、持ってない?」と聞くと「ツメキリならあるよ」とヴァンに戻ってごそごそやる。差し出したツメキリには「鉄腕アトム」が描かれていました。
アパートに戻って保険会社に電話していきさつ、相手の電話番号などを伝える。署名つきのメモもファックスした。やーれやれ、これで一段落。
夕方、電話がかかってきた。ナウシカ・ガンダム・アトムのにいちゃんである。「あのー、もう保険会社に連絡しちゃった?」という。「うん、連絡した。君のメモも送ったよ。後は保険会社に任せよう」と答えたら。「・・・ああ、そう・・・」と言って切れた。
その後、彼はまだ日本のアニメーションを見てるだろうか。
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