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執筆者の写真傳田光洋

イスラムの友人

ぼくの留学2年目、ツレが合流して、友人関係が広くなった。日米独仏アイスランドのDINKSおよびカップルでパーティーを開いたり、キャンプしたり、カヤックで月夜のサンフランシスコ湾を横断したりした。そこにシリアから来た青年、モハメッド君も加わった。もちろんイスラム教徒だったけど、サンフランシスコの街にはアラブ系のカフェやレストラン、食材店があったので、不自由はなかった。


モハメッド君はシリアの耳鼻科医で、アメリカの医師の資格もとるために留学していた。聡明でくったくのない人だったから、すぐにうちとけた。ぼくたちは、最初は宗教のことについて触れることは遠慮してたけど、親しくなるにしたがって、いろんな質問をし始めた。モハメッド君はニコニコしながら丁寧に説明してくれた。


どうしてイスラムでは奥さん4人まで認めてるの?

昔、アラブでは部族間の戦が多かった。その結果、夫を亡くした女性が増えた。経済力のある男性が彼女たちを守るためにできた習慣なんだ。


どうしてブタは食べないの?

昔は、ブタには危険な寄生虫が多かったからだよ。


お酒飲んだことないの?

・・・うーん、実はシャンパンをなめたことが一度だけある。ありゃコカコーラみたいな味だねぇ・・・などなど


そしてモハメッド君は言った。シリアは原油から得られるお金で豊かな国なんだ。だから国民全員の大学までの教育費は国が負担してくれる。ぼくはアメリカの医療技術も学んで、シリアの人たちにそれを広めたいんだ。そういう彼の明るい表情は今も、はっきり憶えている。


仲間みんな、モハメッド君が好きだった。そして縁遠いイスラムの教えも科学者の彼から聞くと、よく理解できて身近に感じられた。1994年ごろの話だ。


その後、「イスラム国:IS」が出現し、2012年、シリアで内戦が始まった。心が苦しくなるようなニュースがいくつも届いた。それは本来の「イスラム」とは別のものだと、ぼくは知っている。モハメッド君との連絡は途絶えている。元気でいてほしいと祈っている。

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